コラム
建設業の資格手当導入で失敗しないための3つの重要ポイント
建設業では、高度な専門性が求められる作業が多く、施行品質及び安全な作業環境の確保のため、特定の資格を持っていなければできない業務が多数存在します。
また、そもそもの建設業許可の申請においても一定の経験または資格を有した専任技術者の配置が求められます。
すなわち、建設業では、「取得しなければ業務ができない資格」や「保有していると施工の品質向上に直結する資格」などの取得が求められるのです。
そこで、会社として従業員の職人の資格取得を促進することは、施工の品質を担保する上で非常に重要ですし、同時に職人にとっても各々が目指す目標が明確になりモチベーションの向上にもつながりますので、積極的に促進を行う企業も多くあります。
そこで、本稿では、資格取得を促進する仕組みとして有効な「資格手当制度」の概要や設計方法、注意点等について解説します。
もし今後資格手当の導入を検討されていましたら、どうぞお気軽にご質問ください。
目次
Toggle1 資格手当制度の概要
資格手当とは、特定の資格を保有している場合や資格試験に合格した場合、技能講習を受講した場合などに企業から支給される手当のことです。
資格手当の制度や支給要件は、各企業が独自に定めている就業規則等の中に規定することが一般的です。
資格手当制度を設計していくにあたっては主に以下の3点を検討する必要があります。
①手当支給の対象となる資格の選定
②支給金額の設定
③支給の形態
それぞれについて考えるべきポイントを個別に解説していきます。
2 資格手当制度の設計のポイント①手当支給の対象となる資格の選定
・どのような資格を手当支給の対象とするべきか
建設に関連する資格はとても数が多く、しかも、施行する工事種によって必要となる資格も異なります。
加えて、国家資格に留まらず、技能講習まで含めるとかなり幅広く検討する必要が生じます。
そこで、どのような資格を手当支給の対象とするべきかについては、自社の業種などを踏まえて検討することになります。
たとえば、仮囲いや足場などを取り扱う仮説工事の場合、実務上以下のような資格が求められることが多いです。
他にも、建設工事を施工する場合は、当該工事現場に一定の要件を満たした者(配置技術者)を配置して工事の技術上の管理を行う必要がありますが、配置技術者となるための国家資格等も業許可ごとに細かく規定されています。
参考:国土交通省「建設業法における配置技術者となり得る国家資格等一覧」
さらに、上記以外にも、各種重機や車両の運転・操作資格なども必要になりますし、事務員に対しても建設業経理士等の資格が有益であることがあります。
資格手当の対象とする資格を選定するにあたっては、自社の行う業務全体を見直し、業務を行う上で必須となる資格のみならず、業務の円滑化を助ける資格まで、包括的に検討を行うべきでしょう。
・民間資格の活用について
一般に建設業者のうち、資格手当制度等をすでに導入している企業は、その対象を国家資格に限定しているケースが多いです。
現状国家資格だけでも様々な関連資格が充実していますし、民間資格の場合は資格の取得によって担保される知識や技術の水準をはかりかねる場合があるためです。
ですが一方で、国土交通省は、民間団体等が運営する一定水準の技術力等を有する資格について、国や地方公共団体の業務に活用できるよう、国土交通省が「国土交通省登録資格」として登録する制度を平成26年度に導入するなど、民間資格の積極的な活用を目指した取組みを行っています。
参考:国土交通省「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格について」
また、土木分野のみならず建築分野においても、公益社団法人日本建築積算協会が実施する「建築積算士」や一般社団法人全国建築CAD連盟が実施する「建築CAD検定試験」など様々な民間資格がありますので、これらを資格取得支援制度の対象と含めることを検討してもよいでしょう。
3 資格手当制度の設計のポイント②支給金額の設定
手当支給の対象とする資格を選定したら、それぞれの資格取得に際して支給する手当の額を決定する必要があります。
資格ごとに取得難易度や業務への関連性はそれぞれ異なります。
特に、保有していないと携われない業務がある資格や難易度の高い資格などに対しては、他の資格よりも多額の手当を支給することが一般的です。
既に資格手当制度を導入している他の同業他社と比較しながら、各手当ごとの支給額を相場を確認し、自社として特に必要度が高いものは支給額を増やすなどして金額を決定していくのがよいでしょう。
このような支給形態は資格ごとに組み合わせて設定することもできますが、その分管理は煩雑になってしまいます。
支給金額の設定と同様の考え方になりますが、自社として何を重要視するかに応じて十分に検討を行うことがよいでしょう。
5 資格手当制度の導入にあたっての注意点
資格手当制度を導入するにあたっての一番大きな注意点は、「一度制定した資格手当制度について、あとになって会社が一方的に廃止することや支給額を減額することは難しい。」という点です。
なぜなら、資格手当制度の廃止や支給額の減額により、従業員がもらえるお金が減少するため、いわゆる「不利益変更禁止の原則」に抵触することになると考えられるためです。
ここで、「不利益変更禁止の原則」とは、従業員の合意なく労働条件を不利益に変更することを禁じる原則をいいます。
「不利益変更禁止の原則」に関しては、労働契約法に以下の条文があります。
(労働契約の内容の変更)
第8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
そのため、資格手当制度の廃止や支給額の減額を行う際には従業員の個別の合意を得る必要があることが原則です。
不利益変更禁止の原則には例外もある?
もっとも、「不利益変更禁止の原則」には例外があり、「変更の内容が合理的である」場合には、従業員の個別の合意がなくても、労働者の不利益に労働条件を変更することができます。
参考:厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール」
変更の内容が合理的であるかは、事案ごとに個別に検討する必要がありますが、主に以下の要素が考慮の対象となります。
・労働組合又は従業員の大部分の合意の有無
・不利益の程度
・不利益変更を行う必要性
・変更内容の相当性
・代替措置、経過措置の有無
・同種事項に関する国内や同業他社の一般的状況等
例えば、給料体系を変更し、年功型賃金体系から個々の成果に応じて変動する業績給にした場合、一部の従業員にとっては成果を上げられず給与が減少してしまうという不利益が生じます。
一方で、業績給は、個々の業績を公平に評価するものであり従業員のモチベーションの向上にも繋がることから、その導入については経営上の高度の必要性があるともいえます。
実際の裁判例においては、生じうる増減額の幅、評価の基準・手続、経過措置等において相当な内容と認められること、及び、組合との実質的な交渉を経ているなどの諸事情を踏まえて、このような給与体系の変更を「不利益変更」ではあるものの、「合理性」があるため変更は有効であると判断したものもあります(大阪高判平13・8・30)。
以上のような例外はあるとはいえ、紛争防止の観点からは、資格手当制度を制定するにあたっては、簡単には変更できないことを念頭に、専門的なアドバイスを受けながら慎重に行うことを強くお薦めします。
当事務所でも資格手当の導入のサポートしておりますので、疑問点等ございましたらお気軽にお問合せください。
6 まとめ
以上、ここまで建設業界における資格手当の導入とその注意点について整理しました。
相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、
お気軽に「お問い合わせフォーム」または「LINE」より当事務所までご連絡ください。
必ず1営業日以内にお返事いたします。
Beagle総合法律事務所 宮村/尾崎
宮村 頼光(みやむら よりみつ)
Beagle総合法律事務所
所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット
司法試験合格後、大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。建設業界の人事/労務/法務の諸制度の整備を得意とし、年商5億の建設会社を3年で年商20億まで成長させた実績を有する。
尾崎 太志(おざき たいし)
Beagle総合法律事務所
慶應義塾大学卒業後、国立大学法人や公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会での勤務を経て、2022年に入所。中小企業へのビジネス・財務・法務面のサポートを全面的に担う。