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コラム

一人親方であっても現場の事故について元請人に損害請求や労災を主張できる?

一人親方が、元請人から常用の手配を受けて、建設現場で作業していたところ、事故が発生し、その事故を原因とする怪我により働けなくなってしまった、といったケースが発生することがあります。

 

当事務所では、このように現場で事故が起きた場合に、一人親方であっても、元請人に対して、何らかの請求が出来ないか、とのご相談をお受けすることがあります。

 

そこで、本稿では、一人親方が現場で事故に遭った場合に元請人に請求できることについて解説します。

 

万が一、事故に遭われてお困りの場合は、小さな質問でも大歓迎ですので是非お気軽にお問合せください。

1 そもそも一人親方とは何ですか?

 

一人親方とは、一般的に、企業に勤めることなく自身の裁量で働く個人事業主のことを指します。

 

そのため、元請人と一人親方との間では、雇用契約ではなく、請負契約又は準委任契約が締結されていることが一般的です。

 

2 一人親方が建設現場で事故に遭った場合に元請人に請求できること

 

一人親方が、建設現場で事故に遭った場合、元請人に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができる可能性があります。

 

また、労災申請にあたって、元請人の労災保険の適用を主張できる可能性もあります。

 

当事務所においても、実際に、元請人に対する損害賠償請求や、元請人の労災保険の適用が認められた実例があります。

 

以下、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求と、労災申請について、それぞれ説明します。

 

3 そもそも「安全配慮義務」とは何ですか?

 

安全配慮義務とは、会社による「労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)のことをいいます。

 

参考:厚生労働省「安全配慮義務に関する裁判例」

 

この安全配慮義務は、判例によって認められていたものでしたが、平成20年に施行された労働契約法5条によって、法律上も明文化されました。

 

参考:e-GOV 法令検索「労働契約法」

 

労働契約法第5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 

このように、安全配慮義務は、判例及び法令によって明文化された、会社が労働者に対して負う、労働者を危険から保護する義務のことをいいます。

 

4 一人親方は、元請人に対して、安全配慮義務違反を主張できますか?

 

もっとも、一人親方は、元請人の労働者ではなく、あくまで個人事業主です。

 

そのため、一人親方は、元請人に対して安全配慮義務違反を主張できないようにも思えます。

 

しかしながら、判例は、安全配慮義務が発生する範囲を広く認めており、安全配慮義務について、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」(最高裁昭和50年2月25日判決)と判断しています。

 

すなわち、判例上、安全配慮義務は、雇用関係の有無に拘わらず発生するとされており、元請一人親方など直接の労働契約関係がない当事者間であっても発生すると解釈されています。

 

したがって、一人親方であっても、元請人に対して、安全配慮義務違反を主張できる可能性があります。

 

5 一人親方は、どのような場合に、元請人に対して安全配慮義務違反を主張できますか?

 

安全配慮義務の具体的内容は、判例上、「労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なる」(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)とされています。

 

そのため、一人親方が、元請人に対して、安全配慮義務違反を主張するためには、事故が発生した当日の、一人親方の具体的な業務内容、事故が発生した場所や状況等を詳細に検討する必要があります。

 

そのため、「このような場合には確実に安全配慮義務違反を主張できる!」というようなことはありません。

 

とはいえ、裁判を見据えて、安全配慮義務違反に繋がるような事実関係を整理した上で、証拠を準備していくことが重要です。

 

6 一人親方は、労災申請にあたって、元請人の労災保険の適用を主張できますか?

 

まず、元請人の労災保険は、一人親方が、あくまで元請人の労働者である場合に適用されるものです。

 

そのため、個人事業主に過ぎず、元請人の労働者ではない一人親方は、元請人の労災保険の適用は主張できないことが原則です。

 

ところが、労働基準監督署が、「その一人親方は元請人の労働者である。」と認定した場合には、一人親方であっても、元請人の労災保険の適用を主張できます。

 

そして、一人親方が、元請人の労働者であるのか、それとも、個人事業主であるのかについては、昭和60年12月19日付け労働省労働基準法研究会の「労働基準法の『労働者』の判断基準について」で説明されています。

 

すなわち、一人親方が、元請人の労働者であるといえるか(労働者性)について、以下の要素を踏まえて判断されます。

 

  • 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

一人親方が、元請人の仕事の依頼や、業務指示を断われないという場合は、労働者性が肯定される要素となります。

ただし、専属下請の場合には、当然には労働者性が肯定される要素とはならないと考えられています。

 

  • 業務遂行上の指揮監督の有無

元請人が、一人親方の作業について具体的な指揮監督をしていという場合は、労働者性が肯定される要素となります。

ただし、元請人が一般的に行う程度の指示に止まるときは、指揮監督を受けているとはいえないと考えられます。

 

  • 勤務場所及び勤務時間の拘束性の有無

下請人の勤務場所や勤務時間が指定されて管理されているという場合は、労働者性が肯定される要素となります。

 ただし、業務の性質等から必然的に勤務場所・勤務時間が指定される場合あるため、事案ごとの検討が必要です。

 

  • 労務提供の代替性の有無

一人親方の判断で、別の一人親方が労務提供することが認められていたり、本人の判断で補助者を使うことが認められていたりする場合は、労働者性が否定される要素となります。

 

  • 報酬の労務対償性の有無(労務を提供していることに対する対価が支払われていること)

報酬の額及び計算方法が、労務の結果ではなく労務提供の時間による場合には、労働者性が肯定される要素となります。

 

  • 事業者性の有無

独自の商号使用が認められていること、報酬が高いこと、事業用資産を所有していることなどは、労働者性が肯定される要素となります。

 

  • 専属性の程度

の現場での作業に従事することが制約され、また、時間的余裕がなく事実上困難である場合には、労働者性が肯定される要素となります。

 

  • その他の事情

①採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること

②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること

③労働保険の適用対象としていること

④服務規律を適用していること

⑤退職金制度、福利厚生を適用していること

などは労働者性が肯定される要素となります。

 

以上の要素を踏まえて、具体的な事実関係を整理した結果、労働基準監督署が、一人親方が元請人の労働者であると認定した場合には、一人親方であっても、元請人の労災保険の適用を主張できます。

 

なお、労災保険の申請にあたっては、厚生労働省のウェブサイトで手続を確認しながら進めてください。

 

参考:厚生労働省「労働災害が発生したとき」

 

 

7 一人親方の特別加入制度の労災保険について

 

労働者を雇用せずに、建設現場で作業をする一人親方については、労災保険に特別加入することができます(労災保険法第33条)。

 

特別加入制度の労災保険に加入することで、より手厚い補償を受けられるようになりますので、万が一の事故に備えて、特別加入制度の労災保険にまだ加入していない一人親方は、今すぐの加入を強くおすすめします。

 

参考:厚生労働省「特別加入制度のしおり」

 

 

8 建設現場での作業中の怪我に健康保険を使うことができますか?

 

建設現場での作業中の怪我について、健康保険を使うことはできません。

 

むしろ、健康保険を使うと、一時的に治療費の全額を自己負担する必要が生じ得ます。

 

そのため、仮に、上司から「元請人に迷惑がかかるから、健康保険で治療するように。」と言われても、健康保険ではなく、労災保険を使用するようにしてください。

 

悩むことがあれば、直ちに、労働基準監督署に相談するようにしてください。

 

参考:厚生労働省「お仕事でのケガ等には、労災保険!」

 

 

9 下請人の労働者であっても、元請人に対して安全配慮義務違反を主張できますか?

 

安全配慮義務は、労務供給に伴う危険性に対応して安全配慮の必要性があるところに生ずるものと考えられています。

 

したがって、下請人の労働者であっても、元請人に対して安全配慮義務違反を主張できる可能性があります。

 

ただし、前述のとおり、そもそも、一人親方が、元請人に対して、安全配慮義務違反を主張するためには、事故が発生した当日の、一人親方の具体的な業務内容、事故が発生した場所や状況等を詳細に検討する必要があります。

 

10 事故が発生した場合、どの時点で弁護士に相談するべきですか?

 

事故発生から時間が経っていると、その現場での全ての作業が終了しており、協力会社も行方不明になってしまっている、といったケースがあり得ます。

 

このようなケースでは、元請人との交渉や裁判に向けた証拠の準備が難しいことが一般的です。

 

そこで、事故に関する証拠や関係者の連絡を保全し、今後の方針について検討するため、可能な限り、事故が発生した直後に弁護士に相談するようにしてください。

 

11 まとめ 

 

以上、一人親方が建設現場で事故に遭った場合に元請人に請求できることについて整理しました。

 

初回相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、お気軽に「LINE」又は「お問い合わせフォーム」より当事務所までご連絡ください。

 

必ず1営業日以内にお返事いたします。

 

Beagle総合法律事務所

弁護士宮村頼光

 

【今回の記事の参考文献】

出典:「類型別 労働関係訴訟の実務編」著者佐々木 宗啓ほか 編著

      「安全配慮義務法理の形成と展開」下森 定 編

この記事を書いた弁護士

宮村 頼光(みやむら よりみつ)

Beagle総合法律事務所

所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット

 

司法試験合格後、2018年に大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。インドのシリコンバレーといわれるバンガロールの法律事務所にて執務した経験や、複数社の役員としてゼロから事業を立ち上げた経験と実績を有する。

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