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コラム

建設工事請負契約の落とし穴!下請業者が知っておくべき契約のポイント

下請事業者が請負契約を締結するにあたって、元請事業者とのトラブルが生じることは珍しくなく、当事務所でも以下のようなご質問をお受けすることがあります

 

【下請事業者からよく相談を受ける法律問題一覧】

 

①建設工事の請負契約書に絶対に記載しないといけない事項は何ですか?

②建設工事の請負契約書の作成前に着工してもいいですか?

③建設工事の請負契約は、注文書・請書による方法で締結しても問題ないですか?

④建設工事の請負契約は、電子契約によることも可能ですか?

⑤下請会社に一方的な不利益な内容の請負契約を締結することは問題ないですか?

 

本稿では、当事務所が実際に受けたことのあるご相談事例をもとに、請負契約の締結について、下請事業者からよく相談を受ける法律問題について解説していきます。

 

【相談事例】

当社は、既存の取引先にご紹介いただいた新規の元請会社A社から、下請けとして工事を受注することとなりました。

 

A社の担当者からは

「既に着工予定日を過ぎており、請負契約書を作成する時間がない。工事名、工事内容、請負代金、工期を記載した簡単な注文書を後からメールで送るので、請書をメールで返送してほしい。注文書を送付するまでに1週間ぐらいかかるが、少しでも工事を進めたいので、明日から着工してくれないか。」

と指示されました。

 

その上で、当社は、A社より、

本体工事の請書代金に、追加工事の請負代金が全て含まれているので、仮に、追加工事が発生したとしても、追加工事の請負代金は払うことはない。

と伝えられました。

 

A社から受注した工事を施工するにあたって、当社が気を付けることはありますか。 

 

 

 

A社の言動は、建設業法に違反する可能性が高いものであり、A社の指示どおりに着工すると、下請人である当社が結果として大きな不利益を受ける可能性があります。

 

以上の事例は、当事務所が、実際に受けたことのあるご相談で、実務的には同じような問題が頻繁に発生しているものと思われます。

 

下請人としても、元請人との交渉上の武器として、建設工事の請負契約の締結に関する建設業法上のルールをしっかりと理解しておくことで、紛争の発生を未然に防止することが可能となります。

 

そこで、本稿では、A社の指示の具体的にどこが建設業法に違反する可能性が高いかを説明します。

 

1 建設工事の請負契約書に絶対に記載しないといけない事項は何ですか?

 

建設業法上、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して一定の事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付することが原則として求められています。

具体的には、次の事項です。

 

①工事内容

②請負代金の額

③工事着手の時期及び工事完成の時期

④工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容

⑤請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

⑥当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

⑦天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

⑧価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

⑨工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

⑩注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

⑪注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

⑫工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

⑬工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

⑭各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

⑮契約に関する紛争の解決方法

 

A社は、「工事名、工事内容、請負代金、工期を記載した簡単な注文書」を作成する旨述べていますが、この注文書には、以上の項目の一部しか記載されていません。

したがって、A社が作成予定の注文書の内容は、建設業法に違反する可能性が高いと考えます。

 

2 建設工事の請負契約書の作成前に工事に着工してもいいですか?

 

請負契約の明確性及び正確性を担保し、紛争の発生を防止するため、建設工事の請負契約における契約書面の交付については、災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として下請工事の着工前に行わなければならないと考えられています。

 

A社は、

「注文書を送付するまでに1週間ぐらいかかるが、少しでも工事を進めたいので、明日から着工してくれないか。」

と述べていますので、契約書面の交付は、工事の施工途中で行われることとなると思われます。

 

したがって、A社が契約書の作成前に着工を指示している点は、建設業法に違反する可能性が高いと考えます。

 

3 建設工事の請負契約は、注文書・請書による方法で締結しても問題ないですか?

 

建設業法上、注文書・請書による請負契約を締結する場合は、次に掲げる場合に応じた要件を満たすことが求められています。

 

ア 当事者間で基本契約書を取り交わした上で、具体的な取引については注文書及び請書の交換による場合

 

基本契約書には、建設業法第19条第1項第5号から第15号に掲げる事項(ただし、注文書及び請書に個別に記載される事項を除く。)を記載し、当事者の署名又は記名押印をして相互に交付すること。

注文書及び請書には、建設業法第19条第1項第1号から第4号までに掲げる事項その他必要な事項を記載すること。

③注文書及び請書には、それぞれ注文書及び請書に記載されている事項以外の事項については基本契約書の定めによるべきことが明記されていること。

④注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印すること。

 

イ 注文書及び請書の交換のみによる場合

 

注文書及び請書のそれぞれに、同一の内容の契約約款を添付又は印刷すること。

契約約款には、建設業法第19条第1項第5号から第15号に掲げる事項(ただし、注文書及び請書に個別に記載される事項を除く。)を記載すること。

③注文書又は請書と契約約款が複数枚に及ぶ場合には、割印を押すこと。

④注文書及び請書の個別的記載欄には、建設業法第19条第1項第1号から第4号までに掲げる事項その他必要な事項を記載すること。

⑤注文書及び請書の個別的記載欄には、それぞれの個別的記載欄に記載されている事項以外の事項については契約約款の定めによるべきことが明記されていること。

⑥注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印すること。

 

A社は、注文書と請書により、請負契約を締結することを希望しているようですが、A社・当社間の取引は、今回が初めてであり、基本契約書の作成はされてないと考えられます。

また、注文書と請書には、「工事名、工事内容、請負代金、工期」のみが記載されており、他の必要記載事項は記載されていないと思われますので、この度の注文書と請書は、建設業法上、必要な要件を満たしていないと考えられます。

 

したがって、注文書・請書による請負契約を締結するために必要な要件を満たしていない点は、建設業法に違反する可能性が高いと考えます。

 

4 建設工事の請負契約は、電子契約によることも可能ですか?

 

建設業法上、書面契約に代えて、一定の基準をクリアしたサービスを利用する場合であれば、電子契約も認められています。

ただし、この場合でも、建設業法第19条第1項第1号から第15号で定められた事項を記載する必要があります。

 

そして、建設工事の請負契約において、電子契約が認められるための要件としては、一般的に、見読性、原本性、本人性の要件が必要とされますが、工事請負契約書をメール添付の方法により取り交わす場合については、技術上要求される水準が高いため、要件を満たすことは難しいと一般的には考えられています。

 

したがって、A社が、建設業法上の要件を満たした方法により電子契約の締結を行う場合を除いて、メールによる建設工事の請負契約は建設業法に違反する可能性があると考えます。

 

5 下請会社に一方的な不利益な内容の請負契約を締結することは問題ないですか?

 

建設業法上、下請人にのみ一方的な義務を課す片務的な内容による契約は、不適当であると考えられています。片務的な内容による契約とは、たとえば、元請負人の裁量の範囲が大きく、下請負人に過大な負担を課す内容の契約等です。

 

この点、建設工事の請負契約においては、下請段階における請負契約の標準的約款として国土交通省が主体として作成した、「建設工事標準下請契約約款」があります。

 

参考:建設工事標準下請契約約款

 

そのため、建設工事標準下請契約約款と比べて、下請人に不利益な内容による契約については、結果として建設業法第19条の3により禁止される不当に低い請負代金につながる可能性がありますので、不適当と考えられています。

 

A社は、「追加工事が発生したとしても、追加工事の請負代金は払うことはない」と発言していますが、これは、下請会社である当社に対して一方的な不利益な義務を課す片務的な内容による契約であるといえます。

 

したがって、建設業法上、不適当であると考えられます。

 

現在、元請人との間で交わしている契約が適法なものなのか?

今一度、請負契約の内容を見直したい

 

そういったお悩みをお持ちの方は、是非お気軽にお問合せください。

6 まとめ

 

以上、建設工事の請負契約の締結に関して下請け人が知っておくべきことについて整理しました。

 

相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、

お気軽に「お問い合わせフォーム」または「LINE」より当事務所までご連絡ください。

必ず1営業日以内にお返事いたします。

 

この記事を書いた弁護士

宮村 頼光(みやむら よりみつ)

Beagle総合法律事務所

所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット

 

司法試験合格後、2018年に大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。インドのシリコンバレーといわれるバンガロールの法律事務所にて執務した経験や、複数社の役員としてゼロから事業を立ち上げた経験と実績を有する。

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