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コラム

追加工事代金が支払われない?下請会社が元請会社に言うべきこと

日々状況が変化する建設現場では、当初想定していなかった追加・変更工事が発生することがよくあります。

 

一般的に、「追加工事」とは着工前に合意した「請負契約の内容に含まれない工事」をいい、「変更工事」とは「着工前に合意した請負契約の内容を変更する工事」をいいます。

 

着工前にどんなに詳細な図面を作成したとしても、実際に工事を始めてみると、現場の状況等により、どうしても当初の図面には記載のない施工の必要が生じるのが実情であり、実務的には、ほとんど全ての工事において、多かれ少なかれ追加・変更工事が発生しているものと思われます。

 

ところが、追加・変更工事に関するトラブルは多く、当事務所にもこれまで多くの相談が寄せられてきました。

 

たとえば、元請事業者の現場管理者が、発注書を発行しないまま、口約束で追加工事の発注をした結果、施工後になって

「追加工事だとは思っていなかった。」
「発注者が支払ってくれないので追加工事の代金は支払えない。」
「次の案件も回すから今回は請求しないでくれ。」

などと言われてしまうケースです。

 

このようなケースでは、結局、発注書等の証拠がなく、また、相手方が重要な元請事業者である場合等は紛争を避けたいという気持ちから強気の交渉が出来ず、結局、下請事業者が一方的に泣き寝入りとなってしまうことが多いです。

 

本稿では、このようなトラブルが生じる前に、少しでも、追加・変更工事の工事代金を少しでも回収するために下請事業者が日々行うべきことを整理します。

 

なお、以下では、追加・変更工事をまとめて「追加工事等」とします。

 

また、既にこのようなトラブルが生じてしまっている場合には、無料にて相談を受け付けておりますので、お早めにご相談いただくことをお勧めいたします。

 
実務的に、追加工事等をめぐるトラブルが発生する原因としては以下が考えられます。
 
 
原因①そもそもの本体工事の仕様が不明でどの工事が追加工事等であるかが確定できない
原因②下請事業者が、追加工事等であることを十分に説明していなかった
原因③追加工事等であることの合意についての証拠が残っていない
原因④工期に間に合わないため、現場判断で追加工事等を施工してしまった
 
 

紛争予防のためには、以上の原因ごとの対策を行うことが何より重要ですので、以下、その対策について個別に説明します。

 

2 追加工事等をめぐるトラブルについての対策

 
追加工事におけるトラブルへの対策としては主に以下が挙げられます。
 

1 本体工事の仕様を明確にする(原因①への対策)

2 追加工事等が発生すると判明した時点で入念に元請事業者に相談する(原因②への対策)

3 追加工事等に関する証拠を残す(原因③への対策)

4 現場判断で追加工事等を施工しない(原因④への対策)

 

Ⅰ 本体工事の仕様を明確にする

 

そもそも、本体工事の仕様が明確でなければ、その工事が追加工事等であるかの判断ができません。

 

そこで、当初の請負契約書、設計図書、建築確認申請書類、見積書・内訳書等により、本体工事の仕様を明確にすることが重要です。

 

具体的には、請負契約書に、設計図書等を添付の上、

①個別の工事項目の内訳

②内訳ごとの工事代金

③工事代金の算定根拠(工事数量、単価、グレード、工事期間等)

④管理費等

を明記し、万が一追加工事等が発生した時に備えて、

⑤職人の単価

⑥「内訳書記載の工事以外の追加工事等が発生する可能性があること」

も明記するべきです。

 

しかしながら、実務的には、請負契約書上、大雑把に「内装工事一式」「仮設工事(解体・バラし)」などとのみ記載され、具体的な算定根拠が記載されないまま、工事が進められるケースが散見されます。


具体的な算定根拠が記載されない契約書では、本体工事の仕様が明確であるとはいえず、トラブルに発展する可能性がありますので、そのまま工事を進めることは避けた方が良いでしょう。

 

Ⅱ 追加工事等が発生すると判明した時点で入念に元請事業者に相談する。

 

どんなに入念に本体工事の仕様を明確にしたとしても、日々変わる現場の状況により、追加工事等が発生してしまうケースはどうしてもあります。

そのような場合、追加工事等が発生すると判明した時点で、直ちに、元請事業者にその旨を伝達し、追加の工事代金が発生することを根拠と共に丁寧に説明することを心掛けてください。

 

裁判例においても、信義則上、「費用の増加がわかった時点で注文者に対して工事を中止して費用負担を免れるか、あるいは費用負担について何らかの取決めをして工事を続行するかの機会を与え、その了解を求めた上で工事を続行するべき」(東京高判昭和59.3.29)と判示するものもあり、少なくとも追加工事等を施工するできであるかを元請事業者に相談したことを示す証拠は残すべきでしょう。

 

なお、実務的には、追加工事等が発生する原因が、下請事業者側ではなく、元請事業者側にある場合、追加工事等の代金を支払ってくれるケースは多いように思います。

 

Ⅲ 追加工事等に関する証拠を残す

 

(1)追加工事等を合意したことの証拠を残す

 

仮に、追加工事等を施工することとなった場合、元請事業者による指示であるとき、又は下請事業者からの申入れであるときを問わず、その証拠を残すことが極めて重要です

追加工事等の請負契約書を作成することが理想的ですが、工事の現場においては、追加工事等については契約書の作成までされないケースが多いように思います。

その場合でも、最低限、以下の対応を執るようにしてください。

 

ア 元請事業者に発注書の作成を依頼する

 

追加工事等の合意の成立において、発注書の存在は有力な証拠となると考えられます。

そこで、元請事業者に相談の上、発注書を作成してもらいましょう。ただし、実務的には発注書の作成を行ってくれない元請事業者も多いと認識しています。

 

イ 下請事業者より見積書を作成して元請事業者にメールで送付する

 

下請事業者にて追加工事等の見積書を作成の上、元請事業者に送付し、その内容について承諾を得ることも考えられます。

事前に見積書が元請事業者に送付され、元請事業者から特段の留保なく工事が施工されているときには、追加工事等の合意があったと推認される可能性が高いと考えられます。

 

送付方法は、相手方の名刺記載のメールアドレス宛に送付することが良いでしょう。 

LINE等のメッセージアプリでのやり取りで済ますと、資料の保存期限が切れてしまったり、登録名から相手方の本名や会社名を特定できなかったりする場合がある等、証拠として十分でない可能性があるためです。

 見積書作成の時期は、追加工事等の施工を行う必要が生じてから「直ちに」作成することが重要であり、早急に元請事業者に具体的な金額を伝えるべきです。

元請事業者より、「こんな金額になるなら発注しなかった。」と主張されることが多いためです。

なお、実務的に、見積書の作成には時間を要し、場合によっては数週間かかることもあります。

その場合には、まず概算の見積金額を提示しておき、後に正式なものを提出することで対応せざるを得ないと考えます。

 

ウ 現場代理人に現場の作業日報等にサインしてもらう。

 

見積書等を作成する時間がない場合、やむを得ない手段ですが、作業日報・作業報告書に「追加工事等の発注を受けて施工を行ったこと」について明記し、現場代理人や元請事業者担当者よりサインをもらうことも有効です。

これにより、現場代理人等の当時の認識が書面に残るためです。

追加工事等に関する打合せの内容について、簡単な議事録を作成しサインをもらうことも検討に値します。

 

エ 打合せ後にLINEやショートメッセージで合意内容を送付する

 

その他、打合せ後に、元請事業者に対して、メールで合意内容を送付し、合意内容を確認することも有益です。
元請事業者がメールを見ない、などの事情がある場合には、やむを得ず、LINE、ショートメッセージなどでも代替し得ます。

 

オ 請求書を毎月送付する

 

特に、出来高払い方式の工事の場合、追加工事等の工事代金についても、毎月請求書を送付することで、元請事業者も、追加工事等の存在及び代金額を認識することが可能となりますので、紛争予防に繋がります。

 

(2)追加工事等を有償で施工することを合意したことの証拠を残す

 

実務的に、元請事業者より、「追加工事等は無償(サービス工事)だと思っていた。」などと反論されることが多いです。

そこで、以上の追加工事等の合意に関する証拠を準備する際には、「追加工事等が有償であることの合意があったことに関する証拠」も併せて準備することが有益です。


(1)と同様に、例えば、見積書の送付や、現場代理人に現場の作業日報等にサインしてもらうことが効果的です。

 

(3)追加工事等に伴い工期延長の合意もしたことの証拠を残す

 

追加工事等が発生した場合、同時に本体工事の工期が延長されることも多いです。


そこで、追加工事等が発生した場合、速やかに工期がどれぐらい延長しそうかを確認し、元請事業者の了承を得るようにしてください。


「追加工事等に伴う工期延長の合意があったこと」の証拠の保存方法は、(1)と同じものが考えられます。

 

Ⅳ 現場判断で追加工事等を施工しない

 

実務的に、「元請事業者の承諾を待っていたのでは工期に間に合わないし、承諾されるまで作業が進まないと職人への賃金が無駄になる」などの理由により、現場の判断で元請事業者の了承を得ないまま、追加工事等を施工してしまうケースも発生します。

 

このような事業がある場合であっても、原則として、元請事業者の了承を得ないまま工事を進めることは避けるべきであると考えます。

 

やむを得ず、事前の承諾を得られない場合は、少なくとも、追加工事等の施工直後に事後的には了承を得るようにし、万が一、了承が得られない場合には、工事を直ちに中止することも検討してください。

3 工事代金の回収を促進する社内体制を構築する

実務的に、管理現場が多い会社等で、元請事業者からの追加工事等の代金が未入金であることに工事完成の数か月後にようやく気付くケースもしばしばみられます。
 

このような場合、担当者とも疎遠になっていることが多く、まともな証拠を集められないまま、元請事業者と追加工事等の代金についての交渉をせざるを得ないことが多いです。

そこで、取引関係が継続している間に対応できるように、追加工事等の代金が未払いであることをすぐに確認できる社内体制を整える必要があります

 

そのためには、月次で収支管理を行い、月々の出来高請求と月別の精算を確実に行うことが重要です。

 

その際には、追加工事等を行ったことの証拠となり得る、

労務記録の保存

②現場の出面

③作業証明書④作業指示書等、現場の記録

は大切に保存するようにしてください。

 

工事代金の支払いがないまま放置していると、いつまでも支払われない可能性が高いため、未払いに気付いた時点で速やかに動くようにしましょう。

 

また、初動の対応においても正しい知識がないと後々トラブルに発展してしまうことも想定されますので、何かお困りの際には是非お気軽にご相談ください。

4 追加工事等の代金回収に向けた工夫

こちらの記事に整理していますのでご覧ください。

参考:未払工事代金はどのように回収する?弁護士だからできる方法をご紹介

 

5 まとめ

以上、当事務所のこれまでの経験を踏まえて、元請事業者から追加・変更工事の工事代金を回収するために下請事業者が日々行うべきことのポイントについて整理しました。
 
 

相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、

お気軽に「お問い合わせフォーム」または「LINE」より当事務所までご連絡ください。

必ず1営業日以内にお返事いたします。

この記事を書いた弁護士

宮村 頼光(みやむら よりみつ)

Beagle総合法律事務所

所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット

 

司法試験合格後、2018年に大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。インドのシリコンバレーといわれるバンガロールの法律事務所にて執務した経験や、複数社の役員としてゼロから事業を立ち上げた経験と実績を有する。

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