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コラム

未来を築く建設業の新時代:建設業はこれからどうなる?

近年、日本の経済成長率が、他国と比べて停滞していることが指摘され、問題視されています。

 

そして、日本経済全体の動向や景気の傾向は、建設業影響を及ぼします。

 

すなわち、日本経済全体の動向は、建築投資額、建設資材の価格、作業員の賃金など要素関わますので、企業活動を行う上では当然景気の良い状態が望ましいことになります。

 

また、建設業の生産額は日本全体の約5%程度を占めている重要な産業ですので、その分日本経済との関連性も高いことになります。

 

一企業としてできることは限定的であったとしても、経済成長のために実行すべき施策を各企業単位で打っていくことで、企業としての生産額及び利益の増加を見込むことができるのです。

 

例えば、

 

建設現場においてクラウドサービスやドローンの活用などのDX化を通して、生産性を向上させる

環境に配慮した資材や燃費の良い重機導入する

 

といった施策は実際に大きな効果が見込めるものとして注目されています。

 

それぞれの具体的な詳細については「4 建設業の企業としてできる具体的な取り組み」に記載しました。

 

本稿では

 

1 日本経済の現況

2 日本経済における建設業の位置づけ

3 経済成長はどのように達成されるか

4 建設業の企業としてできる具体的な取り組み

5 まとめ

 

という構成で、建設業の企業に求められる役割についてご説明します。

 

1 日本経済の現況

 

まずは、日本経済の現況を把握する上で重要となるGDPという指標について説明します。

 

①GDPの定義

 

GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)の頭文字を取った略称で、日本語では国内総生産と訳され、ある一定期間内に国内で生み出されたモノやサービスの「付加価値」の合計のことを指します。

 

付加価値とは、モノやサービスを販売したときの価値から原材料や流通費用などを差し引いた価値ですので、GDP国内で行われた経済活動によって幾らの儲けが発生したか、を表しています。

 

そのため、「GDP」は、国家の市場規模を反映し、各国の経済力を表す推計値の一つとして重要な指標として捉えられています。

 

②日本のGDPの近年の推移

 

近年の日本のGDPはどのように推移しているのでしょうか。

 

2023年の日本のGDPは約558.5兆円で、2022年の557兆円、2021年の549兆円から緩やかな成長を続けています。

 

しかしこれは、2020年に新型コロナウィルスが全世界的に流行した影響でGDPが539兆円に落ち込んだことからの揺り戻しであり、2019年のGDPが558兆円であったことを考慮すると新型コロナウィルスの流行前の基準に戻っただけだとも捉えられます。

 

世界全体におけるGDPの「国別のランキング」では、2022年の時点で日本はアメリカ合衆国、中国に次ぐ3位の金額となっています。

 

しかしながら、GDPを人口で割って求められる「国民一人あたりのGDP」のランキングでは2022年の日本は30位となっており、多くの国の後塵を拝する形となっています。2000年に集計された同ランキングでは、日本はルクセンブルクについて世界2位に位置していたことを考慮すると、国民一人一人の豊さが相対的に減少しているという点は憂慮に値します。

 

2 日本経済における建設業の位置づけ

 

次に日本経済全体における、建設業の生産額を見てみたいと思います。

 

2019年の数字を例にとると、日本全体のGDPが約532兆円であるのに対して、建設業のGDPは約27兆円を計上しており、建設業が日本全体の生産額の約5%を占めています。

 

この割合は、直近10年ほどは僅かな増減はあるものの、概ね横ばいで推移しています。

 

また、建設業のGDP、つまり建設投資額の内訳としては民間部門が全体の約6割を占めており、残りの4割は政府部門によって構成されています。

 

民間投資の大半が建築工事であるのに対し、政府投資の多くは土木事業となっています。

 

3 経済成長はどのように達成されるか

 

それでは、日本全体としてGDPを押し上げていくためにはどのような方策が必要となるのでしょうか

 

巨視的な視点から国家などの経済活動について分析するマクロ経済学ではGDPを

 

Y=C+I+G

 

の方程式で表します。

 

左辺のYはYield(利益、もうけ)の略で、国全体としての利益であるGDPのことを指しま

 

右辺のアルファベットはそれぞれ

C(Consumption消費)

I(Investment投資)

G(Government Spending政府支出)

のことを指します。

 

したがって、右辺を構成する各変数の和を増加させることができれば、GDP全体の底上げに繋がります。

 

以下に、各項目の概要について説明したいと思います。

 

①消費

 

ここでいう消費は家計による消費支出を指します

 

消費はGDPの60%程度を占める最も重要な要素として位置づけられており、消費の活性化は経済成長に大きく寄与します。

 

家計における支出額を大きく作用する要素の一つが、可処分所得の金額です。

 

可処分所得とは、家計の収入のうち、政府への税金や社会保険料などの支払を差し引いた「手取り」の金額であり、一般に可処分所得が増えることによって、財やサービスの消費に使うことができる金額も増えるため、消費活動が活性化します。

 

そして、可処分所得と併せて重要な要素として平均消費性向があります。

 

これは、可処分所得に占める消費支出の割合の平均を算出して得られる数値で、家計が消費よりも貯蓄に回す金額を相対的に増やしていくと、平均消費性向は減少していきます。

 

したがって、消費活動が適切に活性化されるためには、可処分所得及び平均消費性向が増加しなければなりません。

 

そのために現在、日本政府として注力している施策が最低賃金の底上げです。

 

最低賃金が底上げされることによって、低所得者層の収入が増額し、可処分所得も同時に増額されることになります。

 

②投資

 

企業が、より多くの財・サービスの生産のために用いる財の購入が投資です。

 

日本の生産年齢人口は1995年をピークに、以降減少を続けており、こうした状況において各企業は生産性の向上を求められています。

 

生産性の向上とはすなわち付加価値額の向上であり、需要の増加が前提として必要になります。

 

同じ財・サービスについて供給が一定の時、需要が増えることによってモノの値段もそれに伴って向上していくためです。

 

需要の増加に伴って価格が上昇する現象は「デマンド・プル・インフレ」と呼ばれています。

 

③政府支出

 

国、地方問わず自治体が行う財・サービスへの支出を指します。

 

日本における国家予算は、各省庁の概算要求を基に財務省が予算案を作成、それを閣議決定した後に国会にて審議されて決定されます。

 

そのため、国家予算額が増加すれば政府支出も増額するわけですが、ここで注意しなければならない点は、政府支出は税収を財源としており、増税を伴う政府支出の増額は家計及び企業の消費行動を萎縮させてしまう恐れがあるという点です。

 

国家予算額の決定に企業として直接関わることはありませんので、政府支出については、企業として動向を注視しておくといった対応に留めておくことでよいでしょう。

 

4 建設業の企業ができる具体的な取り組み

 

ここまで経済成長がどのように達成されるかについてご説明してきましたが、次に建設業に焦点を絞り、建設業の各企業に求められる役割について説明します。

 

まず、企業として、家計における消費の活性化のためにできることとして賃上げがあります。

国土交通省は、公共工事設計労務単価について、2024年の3月から前年度比5.2%引き上げるというルールを設定しました。

 

参考:令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について

 

これは、建設業における賃金を含めた労働環境の現状について、政府として改善しなければならないと判断したことが背景にあります。

 

かねてより建設業では職人の高齢化及び若者離れにより、業界全体での人材不足が問題となっており、これは公共工事を手がける企業のみならず建設業全体として取り組んでいかなければならない課題です。

 

既に大手ゼネコンは自社従業員の賃上げを進めていますが、資金力に余裕のない中小企業が賃上げに対応していくためには、以下の2点が重要であると考えられます。

 

DX化の推進による生産性の向上

②イノベーションの創出

 

①DX化の推進による生産性の向上

 

建設施工のあり方を見直し、従業員一人当たりの生み出せる付加価値額を増やすことによって、各企業はより大きな利潤を得ることができ、従業員の賃上げを行うための財源を確保することができるようになります。

 

これまで建設業では多重下請構造を基本とし、受注から竣工に至るまで様々な企業が関わることから、受発注や安全書類の管理など、煩雑な業務が多く業務フローの改善が求められてきました

 

そこで注目されているのがDX化の推進です。

 

DXとはデジタルトランスフォーメーションのことで、デジタル技術を使って、人手のかかっていたサービスを自動化したり作業を効率化することを指します。

 

以下、建設業において導入できるDX化にはどのようなものがあるのかご紹介します。

 

・クラウドサービスの導入

 

クラウドサービスとは、インターネット上で提供されているアプリやソフトウェアを利用して、オンラインで情報のやり取りを可能にするサービスです。

 

建設業では、現場ごとに膨大な情報のやり取りが発生し、施工管理がとても煩雑なものになっていた背景があります。

 

ですが、施行写真や図面、工程表の授受など、従来は紙を使って行っていたアナログな施工管理を、クラウドサービスの導入を通して、どこでも対応できるようにすることで、作業の指示や進捗の確認が容易となり、生産性の向上が期待できます。

 

・ドローンの使用

 

ドローンの技術が大幅に向上してきた昨今では、建設現場で撮影や測量を行うのにドローンが積極的に活用されています。

 

特に大規模な現場や危険な現場では、安全に作業を行うことのできるドローンは作業員の安全確保の上でも大きな効果があります

 

また、ドローンの操縦に際しては免許の取得が必要となりますので、導入を検討する場合には免許制度もしっかりと理解しておくことが重要です。

 

・AIの活用

AI(人工知能)を建設現場にて活用する事例も増えてきました。

例えば、災害事例を分析し危険を予知する作業や、工事進捗を認識し図面に記録する作業など、これまで人が行っていた作業をAIが代わりに行う事例などがあります。

 

現時点では開発途中のシステムも多く、中小企業などが実務で使用できるものは限定的ですが、AIを取り巻く技術革新はとても急速に進んでいるため、自社として活用できるものがないか常にアンテナを張っておくことをお勧めします

 

さらに、建設業のDX化は、公共事業部門でも強く求められている現状があります。

 

日本政府は、高度経済成長期に全国で一斉に道路や橋、トンネル、下水道管といったインフラを整備しましたが、それら設備の老朽化が近年進んでおり、2012年には中央自動車道 笹子トンネルの天井が崩落する事故が発生するなど、社会問題になっています。

 

一方で公共設備の修繕・保全に割くことができる国や自治体の予算が限られている中で、建設業には効率的に公共工事を進めるよう要請がなされており、そのような中で国土交通省は2016年から建設業の生産性向上プロジェクトi-Construction(アイコンストラクション)」を立ち上げ、特に土木工事のICT化を推進するなどの施策を進めています。

 

参考:国土交通省 i-Construction

 

このような潮流が、建設業全体の改革を後押しすることになるのではないでしょうか。

 

②イノベーションの創出

 

イノベーションとは、オーストラリア出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによって提唱された概念で、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などを従来とは異なる仕方で新結合することで、これまでにない付加価値を財・サービスに付加し、産業構造に変化をもたらすこと」を指します。

 

これは、新しい技術の開発によって新たな製品を産むこと、新しい生産方法を導入すること、新しい販路を開拓することなど、様々な意味を広く含んだ言葉です。

 

ここで、建設関連分野に限定して、イノベーションの例をご紹介します。

 

・BIM/CIM

 

BIMとはBuilding Information Modelingの略で、建物の建設に必要な情報である面積や建材の仕様・性能といったあらゆる属性情報を3Dモデルを基礎に一元管理することができるデータベースシステムです。

 

また、BIMの技術を土木工事にも活用できるようにしたものはCIM(Construction Information Modeling)と呼ばれ、BIMと同様に管理システムの高度化を図ることを目的とした技術として注目されています。

 

これらの技術を導入することで、これまで発注者、設計者、施行者でバラバラに共有されていた情報がBIM/CIMモデルから一括して取得できるようになりで、高品質で高精度な設計・施行・維持管理が可能になるとされています。

 

アメリカなどでは既にBIM/CIMが積極的に広く導入されているのに対して、日本ではBIMを取り扱うことができる人材の不足等の理由から導入が遅れており、国土交通省は令和5年度までの小規模を除く全ての公共工事におけるBIM/CIM原則適用に向けて様々な取組を講じてきた経緯があります。

 

日本はアメリカなどと比べBIM/CIMの導入が遅れていましたが、国土交通省は令和5年度までに、小規模工事を除く全ての公共工事について、BIM/CIMを原則適用させるために様々な取り組みを行ってきました。

 

しかし、BIM/CIMの導入はハードルが高く、システムの活用ができる人材の確保や、習熟するまでの業務負担の大きさ、導入に要する費用など、様々な障壁を解消しなければなりません。

 

導入によるメリットとデメリットを十分に検討した上で、導入に際しては補助金を活用するなどの柔軟な動きが求められます。

 

このような新技術の活用は、建設業の根幹となる施工管理を大きく変容させる可能性をはらんだものとして、今後一層企業での導入が求められていくものと推察されます。

 

・カーボンニュートラル

 

全世界的に、企業活動の環境への負荷低減がトピックとなっていますが、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を含めた温室効果ガスについて、建設業では建設や解体作業にて多くの温室効果ガスを排出してしまっている現状があり、国内の二酸化炭素排出量の約3分の1が住宅や建築物関連によって占められているとされています。

 

2020年の10月に当時の菅首相によって、2050年までに温室効果ガスの排出をし、脱炭素社会の実現を目指す旨の「カーボンニュートラル宣言」が行われて以降、建設業界ではその実現のための技術開発が急ぎ求められてきました。

 

そんな中で、建設業の企業として実行できる取り組みについてご紹介します。

 

・省燃費運転の励行や燃費効率の高い重機の採用

 

重機の運転に際して発生する二酸化炭素を抑制するために、重機の使用を効率化し、燃費の良い重機を用いるなど、日々の現場作業の中でも環境への配慮を常に意識することで改善できる部分が多くあります。

 

・環境配慮型資材の導入

 

環境配慮型資材とは、再利用可能な原料を用いるなど、環境負荷を減らすことを目的として設計された資材です。

 

建設資材についても環境に配慮した商品の開発が進められており、例えば二酸化炭素を吸収する特殊混和材を含み、セメントの使用量を減らしたコンクリートなど、置き換えるだけで脱炭素の効果が見込める資材も登場してきました。

 

このような資材を積極的に導入することは、企業として社会貢献度の高いビジネスを提供しているというブランド力の向上にも直結します。

 

こうした環境問題に対応できる新技術を開発、導入し、従来の建築施工のあり方を変容させることもまたイノベーションが社会にもたらすメリットであると言えます。

 

一見するとGDPの成長とカーボンニュートラルの関連性は薄いかと思われがちですが、IMFの試算では、2050年時点で温室効果ガスの排出量80%削減が実現された場合、日本はEUについて2番目に大きな恩恵を受けるという結果が算出されています。

 

加えて、日本の産業技術環境局が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中で発表したところによると、カーボンニュートラルの実現は、あらゆる産業での新技術の実装を要し、新技術の量産投資によるコスト低減が見込まれることから、2050年に約290兆円、約1,800万人の経済効果・雇用効果が創出されると試算されています。

 

参考:経済産業者「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

 

現在、建設業では具体的にはディーゼルエンジンに代わり、電動、水素、バイオ等の動力を用いた建設機械の開発などが進められており、今後の技術発展が待たれる状況です。

 

建設業に従事する各企業としてはこうした潮流の中で新技術の導入を積極的に行い、社会に要請された役割を果たすことも重要な責務であると言えるでしょう。

 

当事務所では建設会社の経営に関わるご相談もお受けしておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

5 まとめ

 

以上、ここまで日本の経済活動と、建設業に求められる役割について整理しました。

 

相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、

お気軽に「お問い合わせフォーム」または「LINE」より当事務所までご連絡ください。

 

必ず1営業日以内にお返事いたします。

 

Beagle総合法律事務所 宮村/尾崎

宮村 頼光(みやむら よりみつ)

Beagle総合法律事務所

所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット

司法試験合格後、大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。建設業界の人事/労務/法務の諸制度の整備を得意とし、年商5億の建設会社を3年で年商20億まで成長させた実績を有する。

尾崎 太志(おざき たいし)

Beagle総合法律事務所

慶應義塾大学卒業後、国立大学法人や公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会での勤務を経て、2022年に入所。中小企業へのビジネス・財務・法務面のサポートを全面的に担う。

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