コラム
週休2日制の導入ガイド:建設業における働き方改革
近年、日本政府が主導となって、労働制度や労働の在り方を見直す取組みとして、「働き方改革」が推進されてきました。
従来、建設業では週休2日制を導入している企業は限られていましたが、働き方改革以降、週休2日制の導入に向けて対応を進める企業も増加してきました。
本稿では、改めて働き方改革の概要を整理するとともに、建設業の企業がどのように週休2日制に対応すべきかをまとめました。
もし週休2日制への対応として社内の就業規則等の更新を検討されていらっしゃる場合には、具体的な作成のお手伝いをさせていただきますので是非お気軽に当事務所へお問合せください。
近年、日本政府が主導となって、労働制度や労働の在り方を見直す取組みとして、「働き方改革」が推進されてきました。
従来、建設業では週休2日制を導入している企業は限られていましたが、働き方改革以降、週休2日制の導入に向けて対応を進める企業も増加してきました。
本稿では、改めて働き方改革の概要を整理するとともに、建設業の企業がどのように週休2日制に対応すべきかをまとめました。
目次
Toggle1 政府による働き方改革の実行
まずは、これまで日本政府によって行われてきた働き方改革の概要について説明します。
働き方改革とは、2019年4月より施行された働き方改革関連法案に定められた、全国的な労務環境の改善に向けた取組みのことを指します。
政府は、労働制度の抜本改革を、日本経済再生に向けた最大のチャレンジとして位置づけており、労働生産性を改善し成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通した成長を図る「成長と分配の好循環」を構築することを目的としています。
働き方改革関連法案は8つの労働関連法の改正を指していますが、それらが目標とするものを簡単に分類すると以下の4つのポイントにまとめられます。
①賃金の上昇
まず、同じ労働に対しては同じ給料が支払われるべきという、同一労働同一賃金を原則にした、正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇格差をなくすための制度改正です。具体的には、以下の施策が行われています。
・不合理な待遇差、差別的取扱いを禁止する均等待遇規定の整備
・労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
・行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続の規定の整備
②働き方の多様化
続いて、時代の変化に伴い、個々人にとってのよりよい働き方も変容していく中で、労働者に多様な働き方を確保する施策が進められました。
たとえば、ルールの範囲内で始業や終業の時刻を労働者が自由に決定することができるフレックスタイム制や、年収1,075万円以上の一部専門職について本人の同意のもと労働時間規制の対象外とし、成果で評価することとする高度プロフェッショナル制度などが導入されました。
③健康促進
また、労働者の心身の健康の維持のために産業医・産業保健機能を強化すること、勤務後から次の勤務までは10時間または11時間といった心身を休める時間を設ける「勤務間インターバル制度」等の導入もされました。
④長時間労働の是正
そして、あらゆる産業で長時間労働が常態化している現状を正し、労働者を保護するための改革が進みました。
この点は、働き方改革関連法の中でも特に注力されている分野であり、その具体的な方策は以下のとおりです。
・残業時間の罰則付き上限規制
企業が定めた所定労働時間を超えて勤務する残業について、原則月45時間かつ年間360時間以内とし、繁忙期であっても、以下を遵守しなければならない旨が定められました。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、26か月平均80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6回が限度
なお、上記4つの項目は、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合のみ適用される特別条項として定められています。
・5日間の有給休暇の取得義務化
年間に10日以上の有給休暇が発生している労働者が1年間に5日間の有給消化をしていない場合は、企業に対して労働者一人あたり30万円の罰金を課すこととなりました。
・労働時間の客観的把握義務
各労働者が実際に働いていた時間をあやふやにせず正確に管理するために、タイムカードやPCの使用ログなどの客観的な記録を基に労働時間を把握することが義務化されました。これにより実際には残業をしていたにも関わらず、自己申告により残業を付けずにいた、いった事態が防がれることとなります。
・中小企業の割増賃金比率引き上げ
2010年の労働基準法改正において行われた、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の50%以上への引上げについて、従来大企業を対象としていたものを、中小企業を含む全ての企業へと適用対象を拡大することが定められました。
時間外労働の上限規制が2024年4月より始まる
このような働き方改革が進められている中で、建設業では時間外労働の上限規制の適用を5年間猶予されてきました。それは、他の産業と比べても建設業では長時間労働が常態化しており、その是正に長い期間を要すると判断されたためでありますが、2024年の4月からは建設業でも適用されることとなりました。
なお、この適用には一部例外があり、災害時における復旧及び復興の事業については、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。
建設業の担い手不足問題とその解消
建設業では、かねてより他産業と比べても著しい人材の高齢化と新規入職者の減少から、担い手が不足しており、政府としてもこれを日本社会の抱える課題の一つとして認識しています。
建設業の人材不足の主な要因として、これまで長時間労働の傾向が多く見られることが指摘されてきました。
厚生労働省が発表した令和6年4月の「毎月勤労統計調査」によると、全国での平均の月間労働時間が141.5時間、出勤日数が18.2日であるところ、建設業は労働時間が167.1時間、出勤日数が20.5日と、どちらも大きく上回っており、他の産業と比較しても労働環境が厳しい状態にあることが読み取れます。
参考:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年4月分結果確報」
政府の進める働き方改革は、このような労務環境を改善し、より多くの人が建設業に従事しやすい基盤を作ることが目的です。
週休2日の定義
働き方改革に関する影響は、建設業でも徐々に現れ始めています。
たとえば、従来、建設業では週休2日制を導入している企業は限られていましたが、働き方改革以降、週休2日制の導入に向けて対応を進める建設会社が増えてきたのです。
ここで「週休2日制」という言葉の定義について改めて確認したいと思います。
まず、原則として、毎週土曜日と日曜日の週2日間が企業の休日とされている場合はこれを「完全週休2日制」と言います。
それに対して単に「週休2日制」と呼称する場合は、1か月の間に2日休みの週が少なくとも一度ある制度のことを指します。そのため、1週目は2日間休み、残りの2週は1日休みという場合は「週休2日制」の内に含まれます。
これらは法律上定義された用語ではなく、企業の慣行の中で生まれてきた用語です。
なお、労働基準法35条は、毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を設定しなければならないと定めているに留まりますので、「完全週休2日制」「週休2日制」のいずれでも法律上は問題ありません。
参考:厚生労働省愛媛労働局「休憩(第34条)休日(第35条)」
一方で、国土交通省が主導する建設業の「働き方改革実行計画」では建設現場において、4週間に8日休日を確保できることを目標として設定しているため、政府は「完全週休2日制」を目指しているといえるでしょう。
建設業では、そもそもの休日が少ない、という問題がありますので、本稿では、「完全週休2日制」ではなく、「週休2日制」について述べています。
2 週休2日制の導入の現状
2024年4月から全面適用された時間外労働の上限規制を受けて、建設業では現状どの程度週休2日制の導入が進んでいるのでしょうか。
日本建設業連合会が2023年12月に発表した、「週休二日実現行動計画2023年度上半期フォローアップ報告書」では以下のような調査結果が掲載されています(日本建設業連合会の会員である企業のうち104社による回答をもとに、13,236現場・56,604名を対象とした調査)。
2023年度上半期作業所閉所状況
4週8閉所を達成している作業所
全体:49.4%(2018年度 23.6%)
2023年度上半期作業所勤務社員の休日取得状況
4週8休以上を達成している社員数
全体:81.4%(2022年度 80.1%)
参考:日本建設業連合会「週休二日実現行動計画2023年度上半期 フォローアップ報告書」
この調査からは、直近では建設業の約81%の作業員が4週8休以上を達成しており、建設業において年々労働環境の改善が実現されてきていることがわかります。
しかし、土木分野と比して建築分野ではまだ改善が遅れていることなどもあり、引き続き業界全体として週休2日制の実現に向けた取組みは続いていくと見込まれます。
3 週休2日制を導入するにあたっての問題点とその打開策
実際に建設業の各企業が週休2日制を導入する際に、建設業界に特有の性質や過去の習慣などが障壁となり、立ち遅れるケースが多く見られます。建設業が週休2日制を取り入れにために解決が必要な課題としては主に以下のものがあります。
①タイトな工期スケジュール
そもそも、建設現場ごとに設定される工事スケジュールは一般的に非常にタイトになっていることが多いです。
発注者にとっては、できるだけ早く完工させたほうがコストを抑えることが可能なため、工期が余裕を持って設定されることは少ないと言えます。
例えば、建設現場では重機など様々な機械のレンタルが行われていますが、このようなリース費用は一般にリース日数によって決まりますので、コストの削減のために工期を短期に収めようという傾向が強くなります。
そのため、週休2日制の導入によって、職人が稼働できる日数が減ると、発注者が、工期の長期化を恐れ、従来より工事を詰め込んだタイトな工期の設定をする可能性があります。
この点について、交渉力の低い下請人は、タイトに設定された工期での受注を請けざるをえない状況に追い込まれてしまう可能性が高いという問題点が指摘されてきました。
そこで、この問題に対処するべく、令和2年10月に建設業法が改正され、「著しく短い工期の禁止」をする旨の条文が追加されました。
同年9月に国土交通省が改正建設業法の施行に先だって公開した「建設業法令遵守ガイドラインの改訂について」という資料の中には法改正の趣旨が説明されており、「建設業就業者の長時間労働を是正するためには、適正な工期設定を行う必要があり、通常必要と認められる期間と比して著しく短い期間を工期とする建設工事の請負契約を禁止するもの」との記載より、短い工期が非常に問題視されているということが伺えます。
また、各事業者として、こうした現状に対応するためには、主に以下の2点の施策が挙げられます。
生産性の向上
工事作業における生産性を向上させることで、週5日の作業日数であっても効率的に工事の施工を推し進め、短納期での施工が可能となります。
生産性の向上については様々な取組みが行われており、以下の記事でもDX化の推進による生産性の向上についてご紹介していますのでご覧ください。
元請事業者との間で締結する契約内容の見直し
下請事業者が請負契約を締結するにあたっては、元請事業者との間でトラブルになることが少なくありません。
極端に短い工期の設定なども含め、下請事業者が一方的に不利益を被る内容の契約を締結しないためにも、請負契約の締結において十分な知識を持って対応する必要があります。
請負契約締結の際に知っておくべきことについては、以下の記事にまとめておりますので是非ご覧ください。
参考:建設工事請負契約の落とし穴!下請業者が知っておくべき契約のポイント
②日給制
これまで続いてきた建設業に特有の慣習として、主に建設工事で作業を行う職人などの技能労働者の給与形態は、1日の給与が決められており、1か月ごとにその月の勤務日数分の給与がまとめて支払われる日給月給制が一般的となっています。
こうした給与形態に手を加えないままで週休2日制を導入してしまうと、月の中で稼働できる日数が削減されることで、給与が減額されてしまい、労働者が不利益を被る可能性が生じてしまいます。
そこで、給与形態を変更し月給制へ移行することで、労働者にとっては毎月の給与が安定し、より働きやすい環境となりますので、国も建設業の方向性として、月給制への移行を促す方針を検討しています。
参考:国土交通省「建設業の働き方として目指していくべき方向性」
では、実際に月給制へ移行するためにはどのような対応が必要なのでしょうか。
次のステップを経て、社内の人事・給与規定を含む就業規則を改訂し、職人に対して適切に周知を行う必要があります。
①変更案の作成
まずは現在の給与の内訳の洗い出しを行い、賃金テーブルを再設計します。
できあがった変更案については、経営陣の承認を得る必要があるため、変更箇所とその内容が分かりやすいように整理しておくとよいでしょう。
②従業員代表者の意見書を作成する
就業規則の作成・変更については、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聞くことが義務づけられており(労働基準法第90条1項)、また届出の際には意見書としてまとめた書面の添付が必要(同2項)です。
③就業規則変更届を提出する
就業規則の変更案及び従業員代表の作成が済んだら、その両方を、事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。
提出は紙の書類またはCD-ROM等の電子媒体を労基準監督署に持ち込みまたは郵送することで可能ですが、「e-GOV」による電子申請も可能です。
④変更後の内容を従業員に周知する
変更された就業規則は適切な方法をもって従業員に周知することが義務付けられています。
このように、月給制の導入のために就業規則を変更する場合には法律に基づいた手続きを適切に行う必要があります。
当事務所では、就業規則の作成・更新や、人事制度の構築支援を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
4 まとめ
以上、ここまで建設業における週休2日制の導入について整理しました。
相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、
お気軽に「お問い合わせフォーム」または「LINE」より当事務所までご連絡ください。
必ず1営業日以内にお返事いたします。
Beagle総合法律事務所 宮村/尾崎
宮村 頼光(みやむら よりみつ)
Beagle総合法律事務所
所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット
司法試験合格後、大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。建設業界の人事/労務/法務の諸制度の整備を得意とし、年商5億の建設会社を3年で年商20億まで成長させた実績を有する。
尾崎 太志(おざき たいし)
Beagle総合法律事務所
慶應義塾大学卒業後、国立大学法人や公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会での勤務を経て、2022年に入所。中小企業へのビジネス・財務・法務面のサポートを全面的に担う。