コラム
建設現場が台風等の自然災害で休工になった場合に職人は給料・報酬を貰える?
日本では、例年、台風、大雪、大雨、強風、雷、地震等の自然災害により、建設現場での作業が出来なくなり作業所が完全閉所となる、いわゆる休工になるケースがあります。
当事務所では、建設現場が、台風等の自然災害で休工になった場合に、職人が、給料や常用工事の工事代金を貰えるのか、といったご相談をお受けすることがあります。
そこで、本稿では、建設現場が台風や大雪で休工になった場合に職人が報酬を貰えるのかについて解説します。
もし、休工に伴う給料の支払いトラブルのご不安がございましたら、どうぞお気軽にお問合せください。
目次
Toggle1 そもそも給料って働かなくても貰えるものなんですか?
まず、給料は、①労働の対償として、②使用者が従業員に支払うすべてのものをいいます(労働基準法11条)。
そして、一般的には、給料は、「働いたら支払う」「働かなかったら支払わない」と解釈されています。
これを「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼びます。
したがって、給料は働かないと貰えません。
2 自然災害で休工になった場合でも従業員は給料を貰えないんですか?
自然災害で休工になった場合であっても、ノーワーク・ノーペイの原則は適用されます。
すなわち、自然災害で休工になった場合でも、「働かなかったら支払わない」ことになりますので、働いていない従業員は給料を貰えないことになります。
3 自然災害で休工になった場合、従業員は何の手当も貰えないのですか?
労働基準法は、労働がなく給料が支払われない場合でも、休業手当が支払われるときがあることを定めています(労働基準法第26条)。
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
すなわち、労働基準法第26条により、会社は、使用者の責めに帰すべき事由、すなわち、会社都合による休業をした場合については、平均賃金の60%以上の休業手当を従業員に支払う必要があります。
なお、就業規則に規定がない、又は、労働基準法第26条の休業手当の定めよりも従業員に不利な規定を設けた場合であっても、使用者の責めに帰すべき事由による休業をした会社は、平均賃金の60%以上の休業手当を従業員に支払う必要があります。
したがって、自然災害で休工になった場合、従業員は休業手当を貰える可能性があります。
4 休業手当はどのような場合に貰えるのですか?
休業とは、一般的に、従業員が労働契約にしたがって労働の用意を行っており、労働の意思を持っているにもかかわらず、使用者の責に帰すべき事由により、労働することが拒否された場合、または、不可能となった場合を指すと解釈されています。
そのため、休業手当をもらうためには、休工となった理由が、会社都合(使用者の責に帰すべき事由)であるかを確認する必要があります。
【会社都合といえるケース】
・ただの小雨であるのに、会社の判断で念のため現場を休工にした。
【会社都合とはいえないケース】
・大雪や大地震により、公共交通機関が終日止まり又は大幅に遅延し通勤できない。
・台風により通勤中に事故による怪我を負う可能性がある。
・強風により屋外での現場作業を進めることができない。
・出勤できるにもかかわらず、従業員の判断で休んだ。
以上の会社都合といえるケースについては、従業員は、会社都合(使用者の責に帰すべき事由)による休業であるとして、休業手当を貰える可能性があります。
一方で、会社都合とはいえないケースについては、ノーワーク・ノーペイの原則に従い、休業手当を貰えない可能性が高いといえます。
なお、この結論は、日給制の場合であっても、月給制(月給日給制)の場合であっても、異なりません。
5 台風等の自然災害で休工になった場合、会社は、従業員の同意なく、有給休暇を充当することができますか?
結論として、会社は、自然災害で休工になった場合であっても、従業員の同意なく、有給休暇を充当することはできません。
なぜなら、有給休暇は、労働基準法によって保障されている従業員の権利であり、会社が従業員に有給休暇を付与するためには、従業員の申請が必要であるためです(労働基準法39条参照)。
そのため、会社都合による休工であるのに、従業員の同意なく有給休暇扱いとされた場合には、有給休暇扱いとせず、休業手当を支給するよう主張するべきであるといえます。
一方で、会社都合とはいえない休工については、前述のとおり、休業手当も支給されず、欠勤扱いとなってしまうことが原則です。
そこで、このような場合には、従業員が自ら有給休暇の申請を行うことはあり得るものと考えます。
6 自然災害で休工になった場合、以上のほか会社に対してなにかしらの請求が出来ませんか?
以上のとおり、会社都合とはいえない理由で休工になった場合、会社は、従業員に対して給料や休業手当を支給する必要はありません。
とはいえ、たとえば、台風が来たのが夕方であり午前中は稼働したといった場合には、会社は従業員が働いた時間に応じて賃金を支給する必要がありますので、その旨を主張することが考えられます。
7 台風のときに出社するよう命じられたら出社しないといけないですか?
まず、会社は、「労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)」を負っています(最判昭59・4・10)。
また、労働安全衛生法においても、職場における労働者の安全と健康を確保することが謳われています(1条)
そのため、台風で外出することが危険であるのに現場への出勤を命じたり、強風で作業が困難であるのに工事の継続を指示したりすることは、安全配慮義務違反になると評価し得えます。
そして、その結果、万が一、従業員が怪我を負ってしまった場合、会社に対して、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をすることができます。
一方で、危険であることを理由に出社を拒否したにもかかわらず、会社が無理やり出社させようとした場合、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
また、危険であることを理由として出社を拒否したにもかかわらず、これを理由に賃金の減額や懲戒処分をされた場合には、このような処分は無効であると反論することもできると考えます。
実際の天候次第では、欠勤控除とされてしまう可能性はありますが、命より大事なものはありませんので、外出が危険であるほどの自然災害である場合は、迷わず休むことが良いと考えます。
8 自然災害で休工になった場合、常用工事で稼働する予定であった協力会社は常用工事代金を貰えますか?
まず、前提として、常用工事で稼働していた協力会社は、従業員ではありませんので、以上の議論が妥当しません。
そして、自然災害で休工になった場合については、いわゆる不可抗力により債務の履行ができない場合の法律関係として問題となります。
まず、「不可抗力」について、法律上の定義はありませんが、一般的には、「外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないもの」などと説明されています。
簡単にいうと、不可抗力とは、契約当事者にはどうしようもない事情のことをいいますが、台風や大雪などの自然災害によって、常用工事の提供ができなくなってしまった場合も不可抗力に該当すると考えます。
そして、不可抗力により債務不履行となった場合の処理について、常用工事に関する当事者間の契約書に記載があればそれに従うこととなります。
一方で、契約書に記載がない場合については、民法の原則によることになります。
そして、民法の原則によると、常用工事の代金を請求するためには、常用工事を行うことが必要とされています(民法第632条、第656条・第648条参照)。
したがって、自然災害で休工になった場合、協力会社は常用工事を行っていませんので、常用工事で稼働する予定であった協力会社は常用工事代金を貰えない可能性が高いと考えます。
9 まとめ
以上、建設現場が台風や大雪で休工になった場合に職人が報酬を貰えるのかについて解説しました。
初回相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、お気軽に「LINE」又は「お問い合わせフォーム」より当事務所までご連絡ください。
必ず1営業日以内にお返事いたします。
Beagle総合法律事務所
弁護士宮村頼光
【今回の記事の参考文献】
厚生労働省労働基準局編 『平成22年版 労働基準法(上)』(労務行政、2011年)
我妻栄ほか著『第8版 我妻・有泉コンメンタール民法』(日本評論社、2021年)
この記事を書いた弁護士
宮村 頼光(みやむら よりみつ)
Beagle総合法律事務所
所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット
司法試験合格後、2018年に大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。インドのシリコンバレーといわれるバンガロールの法律事務所にて執務した経験や、複数社の役員としてゼロから事業を立ち上げた経験と実績を有する。