コラム
未払工事代金はどのように回収する?工事は中断しても良い?弁護士が解説
建設工事には、職人、手配師、建築士、事務員、現場管理、重機オペレーター、事務員等の人員のみならず、重機、運送車両、工具、機材等、多くのヒトやモノが関与します。
また、一般的に、建設業においては、元請事業者に委託された案件が、2次請け事業者、3次請け事業者、4次請け事業者・・・といったように何層にもわたって再委託される、いわゆる多重下請構造が常態化していますので、各事業者がそれぞれ自らの利益を取得します。
そのため、請負代金は、高額になりがちであり、一つの下請事業者が請け負う単一の工事だけでも数千万円から数億円に及ぶことも実務的にはよくあります。
しかし、工事の受注は、法的には「請負契約」であると整理されることが通常ですので、請負代金の請求は、原則として工事の完成後に行うことになります。
また、完工までに1年以上を要する工事もあるため、工事代金の回収に時間がかかることもあります。
そのため、金額が大きくなりがちな建設業では、特に、工事代金の回収を迅速かつ確実に行っていく工夫が必要となります。
実際に、当事務所でも、
完工したのに元請事業者から入金が行われない
といったご相談をよくお受けします。
そこで、本稿では、建設業における元請事業者からの未払工事代金の回収の方法のポイントについて整理します。
未払工事代金の回収でお困りの方は是非ご一読ください。
また、当事務所では初回の相談を無料で行っておりますので、すでにお悩みがございましたらお気軽にお問合せください。
目次
Toggle1 未払工事代金の回収における重要な考え方
工事代金の回収においては、
元請事業者内において、自社の工事代金支払いの優先順位を上げさせる
ことが何より重要です。
元請事業者は、多くの事業者と取引関係があり、日々多くの工事現場を管理しています。
そのため、日常的に、多くの下請事業者から工事代金の請求を受けています。
このような状況の中で、自社の工事代金を優先的に支払わせるためには、あらゆる方法で、粘り強く催促を続けることが極めて重要です。
そのため、工事代金の回収にあたっては、自社に対する工事代金の支払いを、他の事業者よりも優先して行わせるよう元請事業者内での優先順位を上げさせることを目指します。
2 未払工事代金の回収の一般的な流れ
まず、未払工事代金の回収の一般的な流れとそのポイントを整理します。
(1)電話により支払いの催促をする
まずは、元請事業者の担当者に架電し、工事代金の支払いを催促することが考えられます。
その際には、「なぜ元請事業者が支払いを行わないのか」といった未払いの理由を確認することから始めます。
未払いの理由が、単なる事務手続の不備や、支払日の誤解などによるものである場合があり、この場合、支払いがないことを伝えるだけですぐに工事代金を回収できる可能性があります。
一方で、元請事業者が、当方の施工内容について不備があると考えている場合や、資金難等の理由によりあえて支払いを行っていない場合等については、工事代金の支払いに向けて協議を重ねる必要があります。
また、後々、裁判に発展する可能性もありますので、元請事業者の担当者との会話は全て録音してください。
(2)訪問により支払いの催促をする
元請事業者が、電話による催促を行っても支払わない場合、元請事業者の事務所に訪問することを検討します。
元請事業者が、当方の施工内容について不備があると考えている場合、不備の内容を確認します。
たとえば、
①具体的にどのような点に不備があったか
②当初の図面や施工体制がどうなっていたか
③現場管理者から現場でどのような指示がされていたか
などを議論を通じて確認していくことになります。
また、場合によっては、工事代金の減額や分割弁済等の支払条件を提示される可能性もありますので、そのような支払条件を受け入れることが可能であるかも検討してください。
元請事業者が話合いに応じない場合でも、根気強く話を続けることで、自社の工事代金支払いの優先順位を上げさせる効果がある可能性があります。
なお、実務的には、元請事業者が、訪問に応じてくれない場合も多々あり、その場合は他の方法を検討することになります。
(3)弁護士同席の上で訪問し支払いの催促をする
実務上、弁護士が、元請事業者との交渉の場に同席するケースもあり、当事務所においても、弁護士が同席することによって工事代金の回収に成功したことがあります。
弁護士が元請事業者との交渉の場に同席することは、元請事業者としてもインパクトが大きいと考えられ、これにより、元請事業者の支払いの優先順位が上がる可能性があります。
この場合、重要なのは、
弁護士が同席することを元請事業者に事前に伝えないことです。
弁護士が同席することがわかると、元請事業者側も弁護士を立てることになったり、そもそも訪問に応じてくれなくなったりする可能性があり、結果として、交渉が長期化する可能性が高まるためです。
ただし、騙し討ちであるとして、元請事業者との関係が悪化する可能性もあり、弁護士が同席する限り対話には応じない、と述べられてしまうこともありますので、方針については弁護士と協議することが好ましいでしょう。
(4)自社名義で内容証明郵便等の書面を送付する
訪問での交渉が成功しなかった場合、会社名義で内容証明郵便等の書面を送付することを検討してください。
内容証明郵便とは、「いつ・誰から誰に対して・どのような内容の書類を送ったのか」を日本郵便株式会社が証明してくれるサービスです。
内容証明郵便を利用することで、郵便局が文書の内容が送付されたことを証明してくれるため、「書類は受け取っていない」などとの反論がされることがなくなります。
また、内容証明郵便は、訴訟提起の一つ手前の手段でもありますので、「このまま支払いを無視すると法的手段を採られるかもしれない」というプレッシャーを与えられることもできます。
内容証明郵便等には、当方の言い分や法的根拠を整理して記載し、必要に応じて根拠資料を別送します。
ただ、内容証明郵便等の作成は、慣れていない方だと難易度が高いため、難しい場合は、弁護士に依頼しましょう。
当事務所でも、内容証明郵便の作成のタイミングから案件を受任するケースが最も多いです。
(5)弁護士名義で通知書/内容証明郵便を送付する
自社名義で通知書等を送付しても、支払いに応じてくれないケースもあります。
この場合には、弁護士名義で通知書等を送付することを検討します。
自社名義での通知書等では一切反応をしなかった元請事業者が、弁護士名義で通知書等を送った途端、態度を変え、代金を支払ったという事例も存在します。
弁護士が、内容証明郵便等を作成する場合、事実関係の把握が必要ですので、弁護士の要請に応じて、関連する資料の提供や事案の説明等をしていただくことになります。
(6)和解合意書を作成する(交渉が成功した場合)
未払工事代金の回収方法に関する交渉が成功した場合、一般的には、和解合意書を作成することになります。
元請事業者側が信用できない場合には、公正証書で作成するケースもあります。
公正証書とは、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことを言い、これにより裁判手続を経ることなく、直ちに強制執行をすることができるようになります。
和解合意書の作成だけであれば、大きな費用はかかりませんので、弁護士に依頼することをオススメします。
(7)調停/訴訟を提起する(交渉が成功しなかった場合)
元請事業者が、以上のような任意の交渉に応じてくれなければ、調停/訴訟を提起して判決を得る、という裁判の手続をとることになります。
建設工事紛争審査会を利用することも可能です。
建設工事紛争審査会は、建設工事の請負契約に関する紛争の簡易・迅速・妥当な解決を図るために、あっせん、調停、仲裁を行う公的機関です。
ただし、調停/訴訟は、一般的に多額の費用がかかり、かつ、長期間をかけて行われますので、可能な限り任意の交渉により解決したいところです。
(8)支払督促の申立てを行う(交渉が成功しなかった場合)
調停/訴訟よりも少し簡単な手段として、支払督促の申立てがあります。
支払督促とは、簡易裁判所の裁判所書記官が、元請事業者に対して金銭等の支払を命じる制度です。
裁判所が関与するため、強制執行が可能である一方で、訴訟と比べると手続が簡易でありかつ手数料が安いというメリットがあります。
ただし、元請事業者が、支払督促の申立てについて異議を述べた場合には、通常の訴訟手続に移行してしまいますので、紛争の理由によっては、いきなり通常の訴訟を提起することが良いケースもあります。
3 未払工事代金の回収のための他の手段
ここまでが、未払工事代金の回収までの一般的な流れですが、その他にも未払工事代金の回収に繋がり得る手段がありますので紹介します。
(1)仮差押えを申し立てる
仮差押えとは、裁判所が関与する、元請事業者(債務者)の不動産、預貯金等の財産を勝手に処分できなくする手続です。
調停や訴訟に準ずる程度に大変な手続ですが、成功した場合、債権回収に向けて絶大な効果が期待できます。
仮差押えにより、元請事業者は一定の範囲で自由に財産の処分ができなくなるという大きな不利益を受けることになります。
また、銀行から借入れがある場合、仮差押えにより、期限の利益を失い、全ての債務を全額直ちに支払う必要が出てきます。
そのため、元請事業者は、仮差押えの申立てを取り下げてもらうために、未払工事代金の支払いを行う可能性が出てくるのです。
ただし、不動産の所在地や、預貯金が保管されている銀行口座の情報等が分からない場合、仮差押えをすることはできません。
また、仮差押えを行うためには、高額の担保金の準備が必要となる上、仮差押えの対象となる資産を間違えると空振りに終わるリスクもあります。
また、仮差押えをした結果、元請事業者が資金繰りに窮することとなり、むしろ回収可能性が低くなるといったケースも起こり得ます。
そのため、仮差押えの利用は慎重に検討する必要があります。
(2)相殺を行う
当方が、元請事業者に対して別の債権を保有している場合に使える手段です。
建設業界では、工事Aの元請事業者が、別の工事である工事Bでは下請事業者となることがあります。
そして、工事Aの工事代金が支払われていない場合、これを理由として、工事Bの工事代金を、工事Aの未払工事代金の範囲で一部相殺することが可能です。
相殺は、一方的な意思表示によって行うことができますので、事前の合意なく工事Aの未払工事代金の回収を行うことができるのです。
(3)元請事業者が保有している他社への債権の譲渡を受ける
少し技巧的な方法ですが、当事務所でも過去に実施したことがありますので紹介します。
まず、元請事業者は、施主、発注者、他の工事会社等に対して債権を有しています。
そこで、元請事業者に対して、元請事業者が施主等に対して有する債権を譲渡してもらう方法が考えられます。
なお、債権譲渡には「月末までに未払金を支払わない場合に限って債権を譲渡する」などと一定の条件を付することが一般的です。
これにより、施主等から、未払工事代金が直接支払われることになります。
ただし、かかる方法は、あくまで債権譲渡を行う元請事業者の合意がある場合になし得る方法である点に留意が必要です。
(4)施主・発注者・1次請事業者等に対して相談する
施主等に対して、「元請事業者から工事代金の支払いが行われていない」ことを相談することも検討に値します。
施主等が、元請事業者に対して工事代金を支払うよう説得してくれたり、元請事業者に代わって立替払いを行ってくれたりすることがあるからです。
また、元請事業者が、施主等との今後の取引関係に影響が出ることを恐れて、自発的に支払いを行ってくれる可能性もあります。
ただし、施主等と当方との間に直接的な契約関係はないため、法的には、当方が施主等に対して、直接、元請事業者による未払工事代金を請求することはできません。
そのため、伝達の方法が脅迫的であった場合や、無暗に関係会社各社に紛争の状況を伝達した場合、刑法上の恐喝罪、業務妨害罪、名誉毀損罪等が成立してしまう可能性や、民法上の損害賠償責任を負担する可能性がありますので、施主等への伝達方法については留意する必要があります。
(5)債権者代位権を行使する
施主等に相談し、施主等から元請事業者に対する工事代金の支払いが行われていないことがわかった場合等には、債権者代位権を行使することも検討可能です。
債権者代位権とは、債務者が無資力であるにもかかわらず、債務者が所有する権利を行使しないために債権を回収できない場合に、債権者が、債権回収のため、債務者に代わって行使する権利のことをいいます。
なお、債権者代位権の要件の立証は実務的に難しく、また、訴訟を前提とすることから時間もかかる点に留意が必要です。
(6)行政機関に相談する
建設業法は、原則として、元請事業者が発注元から請負代金の支払を受けてから、1か月以内に下請業者へ支払うことを定めています(建設業法24条の3)。
そのため、元請事業者がかかる期間を超えて支払わない場合、建設業法に違反する可能性があります。
そして、元請事業者が建設業法に違反していることを都道府県等に申告することで、都道府県が元請事業者に対して、行政上の指導・助言・勧告・措置命令・営業の停止命令等をしてくれるケースがあります(建設業法28条)。
行政機関が指導等を行う可能性があることを伝達することは、元請事業者への未払金の支払いへの圧力となります。
特に、建設業法違反によって、元請事業者が公共事業の指名停止処分を受ける場合もありますので、元請事業者が公共工事を受注・施工しているようなケースでは効果が見込めます。
国土交通省では、建設業に係る法令違反行為の疑義情報を受け付ける窓口として、各地方整備局等に「駆け込みホットライン」を設置していますので、実際に相談してみてもいいかも知れません。
国土交通省「―建設業法違反通報窓口― 駆け込みホットライン」
(7)工事を中断する
出来高払いの工事において、元請事業者が決められた期日までに工事代金を支払わない場合、元請事業者は債務不履行状態となります。
そのため、当方としては、同時履行の抗弁権を行使し、それ以降の工事を中断することができます。
当方としてもこれ以上稼働しても工事代金がもらえない可能性が高いことから、いわば当然の対応といえます。
工事を中断することにより、元請事業者のみならず、施主が元請事業者に対して支払うよう説得してくれる可能性が出てきます。
ただし、工事の中断につき、当方に過失があると評価された場合、工事の中断に関連して元請事業者に生じた損害を当方が賠償しなければならない可能性がありますので、工事の中断は最終手段とするべきであると考えます。
また、工事を中断した以上、工事の完成と引渡しがされていないとして、出来高払いの最終月の工事代金をもらえない可能性がある点についても留意する必要があります。
4 どの方法を選択すべきか
次に、以上で整理した未払工事代金の回収の手段について、どのような要素を元に採る手段を決定するべきであるかを整理します。
(1)相手方との関係
相手方が継続的な取引関係がある大口の顧客ということであれば、今後の取引のことを考えると法的手段を採ることは難しいかもしれません。
(2)金額の多寡
金額が数十万円程度であれば、訴訟費用等を鑑みて、工事代金の回収を諦めることも視野に入れるべきであると考えます。
一方で、金額が数百万円から数千万円にも及ぶ場合については、会社の財務基盤に与える影響が大きい為、速やかに訴訟提起を行うことを検討するべきであると考えます。
(3)未払いの理由
未払いの理由によって対応方針が異なりますので、未払いの理由を確認することが重要です。
主な未払いの理由は次のとおりです。
・経営が行き詰まっていて支払いをする余裕がない場合
・そもそも元請事業者も施主から請負代金をもらえていない場合
・工事の内容に不備があったことが原因である場合
・追加工事の内容や金額について紛争となっている場合
(4)相手方の経営状況
仮に、裁判をして勝訴したとしても、お金を持っていない相手からお金を回収することはできません。
そのため、相手方の資産の保有状況や、直近の期の貸借対照表や損益計算書の数字を確認し、相手方の経営状況を確認することが重要です。
特に、資金繰りが悪化している会社については、少しでも早くお金を回収する必要があります。
なお、経営状況に関する数値は公開されていないケースも多いですが、帝国データバンクや東京商工リサーチに掲載されている場合もありますので、可能であれば確認することをオススメします。
(5)相手方の会社規模
相手方が小規模の会社の場合、訴訟を提起したとしても、会社資産を全て他社や代表取締役個人の口座に移してしまっているケースなどもあります。
(6)相手方の交渉態度
責任者が、電話に出ないなど音信不通になっている場合などには、支払う意思がない可能性が高いといえます。
そのため、速やかに裁判所を介入させた手続を行う必要があります。
(7)当方の経営状況
本来入金されるべき日に入金されないことで、当方のキャッシュフローが大きく悪化する可能性があります。
そのため、当方の経営状況に応じて、どの手段を採るべきかを検討することとなります。
5 請負代金の未払い金回収を弁護士に依頼するメリット
弁護士に回収対応を依頼した場合、以下のようなメリットが望めます。
(1)面倒な回収手続を一任できる
任意での交渉、訴訟準備等、本業を行いながら慣れない工事代金の回収業務を行うのは非常に大変であり、かつ、細かい作業が多い為面倒くさいと思われる経営者は多いです。
弁護士であれば、これらの業務を全て一括して行うことができ、依頼後は基本的に相手方への対応を行う必要がありませんので、時間的負担・精神的負担を解消することができます。
(2)専門家として適切な回収方法を判断してくれる
内容証明郵便を送付するだけで工事代金を回収できるケースもあれば、訴訟を提起し強制執行を行ってようやく回収できるケースもあります。
弁護士であれば、相手方の対応状況などから、その時点における最善の選択肢をご提案可能です。
特に、相手会社が倒産の危機にあるような事案ではスピード対応が求められますので、弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。
(3)相手方に対してプレッシャーを与えられる
お互いの関係性や立場などによっては、自社から催促しただけだと真摯な対応をしてもらえないかもしれません。
弁護士に回収対応を依頼すれば、相手に対して工事代金の回収に向けての強い意思を示すことができます。
内容証明郵便で催促するとしても、自社名義の場合と弁護士名義の場合では、相手に与えるプレッシャーは違ってくるでしょう。
これにより、相手が態度を変えて支払いに応じてくれることも期待できます。
このように、早い段階で弁護士に依頼を行うことでスムーズに回収を行うことができます。
困ったらまずは早めに弁護士に相談いただき、今後の対応を検討されることが良いでしょう。
6 まとめ
以上、当事務所のこれまでの経験を踏まえて、未払い工事代金の回収方法のポイントについて整理しました。
相談は、無料で対応しておりますので、ご不明な点がございましたら、
お気軽に「お問い合わせフォーム」または「LINE」より当事務所までご連絡ください。
必ず1営業日以内にお返事いたします。
この記事を書いた弁護士
宮村 頼光(みやむら よりみつ)
Beagle総合法律事務所
所属:東京弁護士会/日本CSR推進協会/欠陥住宅関東ネット
司法試験合格後、2018年に大手法律事務所であるTMI総合法律事務所に入所。インドのシリコンバレーといわれるバンガロールの法律事務所にて執務した経験や、複数社の役員としてゼロから事業を立ち上げた経験と実績を有する。